最果ての城のゼビア 特設ページ

3 どんな曲なの? 音楽の謎に迫る


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3.1 種から見える姿

この曲の元となっているのはいくつかのモティーフ(というかもっと小さい部品)です。これらの部品のリズムや音程、メロディなどはそれぞれ特徴を持っています。このひとつひとつが音楽の表情や情景、性格を決めています。これらの部品はこの曲を書き始める前に曲の象徴的なものとして設計しました。いわばこの音楽の種です。この種をまき水や肥料をやって時間をかけて育てた結果、実ったのがこの曲です。

この種を見極めることが曲を仕上げる早道です。種をよく練習して身につけることができればいつの間にか他の部分もクリアできてしまうという寸法です。ここでは全ての種を紹介することはできませんがひとつだけご紹介しましょう。

[E]2小節目からのクラリネットが演奏する三連符系に付点のついたこのリズムは老いも若きもみんなが苦戦する代表格のようなリズムです。このリズムは6/8ではしょっちゅうでてきます。このリズムのコツをつかめばこの曲の7割方は完成です。このリズムを使った有名な曲にはベートーヴェンの「交響曲第7番」の第1楽章や「交響曲第9番」の第2楽章などがあります。「交響曲第7番」の方は数年前に音大を舞台にしたドラマで使われていたので知っている方もいると思います。これらの曲をよく聴けば習得の助けになるはずです。軽やかな演奏ができるようにしましょう。

3.2 大きな表情で遠くまで届く

この曲はダイナミクスレンジの差が大きい方が効果的です。実際の音量というよりも大きい所と小さい所の差が大事なんです。つまり急に音量が変わるところでどれだけ変えられるか?です。普段の基礎練習からどんな音量でも安定した音を出すように意識した方がいいでしょう。

譜面に書かれていない音量の変化も大事です。強弱記号が書かれていないところは変化させてはいけないという意味ではなく「言わなくてもわかってますよね!」ということです。楽譜には書かれるほどではない微妙な強弱が実は書かれているのです。それはメロディラインやコード進行などによるエネルギーの移り変わりによって読み取ることが出来ます。なので譜面に書かれていない表情まで読み取って積極的に表現するのが正解です。たまに譜面に書かれていないからといって頑なに音量が変わらないように演奏しているバンドを見かけますがどうなんでしょうか。


テンポについても同じことが言えます。遅いところ、速いところの違いを大げさにすること。全体が同じぐらいのテンポだとメリハリがなくなりぬる〜い音楽になってしまいます。

また、微妙なテンポの揺れも必要です。ただし気をつけてもらいたいのは揺らしていいところとダメなところの見極めです。パーカッションが一定のリズムで繰り返しているところなどは揺らさず一定のテンポで流れを崩さないようにしましょう。それ以外では大事な音をよく聴かせるようにテンポを微調整してください。

3.3 小さな流れ〜大きな流れ

この曲の特徴は同じパートがメロディを担当し続けない、というところにあります。一見すると短いパッセージが並んでいるように見えます。しかしそれは違います。本当はその短いパッセージが長いメロディの一部に過ぎないということです。よくわかるのは[E]からです。最初はトランペットとユーフォニアムで始まりすぐにクラリネットにバトンタッチします。5小節目からはフルートとオーボエに移っていきます。パート譜だけを見るとそれぞれにどんな役割があるかわからないかもしれません。しかしそれらがひとつの大きな流れだということに気がつけば演奏の仕方も自然に変わってくるでしょう。

この曲はこのようにパート譜だけではわかりにくい構造をしています。その分、そのことを理解すれば音楽の流れが格段によくなるはずです。これはプロのバンドよりもコンクールに参加するみなさんにこそ有意義な構造です。じっくりひとつの曲に向かいあう時間のないプロではなかなか難しいですが、じっくりと曲に取り組むコンクールではそれが可能です。それにこれは初心者だからできない、というものではありません。ちょっとした手間でレベルの高い演奏ができるポイントです。

3.4 ニガテリズムを克服しよう

「リズムが難しい!」「そろわない!」といった声がどこからともなく聞こえてきます。それはそうでしょう。2ヶ月〜の永い練習期間をかけるべき難易度にしてあるんですから。逆に言えばこれらのムズカシイリズムは2ヶ月ほどの間、毎日少しづつ練習すればできる程度のものです。実はこういう系の曲はプロフェッショナルのバンドでは嫌われます。2、3回のリハーサルで本番を迎えるにはリスクが高すぎるからです。某音大バンドでは指揮の先生がブツクサ言っているのを聞いて心の中で密かにニヤリとしてしまいました。

とはいえ、難しいことには変わりがないので少し練習方法を提案してみたいと思います。大人の事情で譜面を載せることができないのでリズムだけ表示します(自分の曲なのに…(T0T)

譜例クリックで拡大

まず、スコアで[E]2小節目からのBbクラリネットを見てください。ここは難しいところランキングでもかなりの上位になるでしょう。

手慣れたバンドであればこのようなところは譜例の(2)のように十六分音符を八分音符にリズムを置き換えてみてビートを正確にはめることができるように練習すると思います。八分音符を3つ単位で均等に刻めるスキルは絶対に必要なのでこの練習はぜひ日課に入れておいてください。

この次のステップでは、多くのバンドは(3)のように十六分音符を交えてみることでしょう。この練習は付点の長さと十六分音符のタイミングを正すことが目的です。すごく有効な練習で私も学生時代にやった記憶があります。しかしここでは違うパターンを提案します。(4)を見てください。八分音符3つのうちの真ん中の音をなくして最初の音を四分音符にします。最初の音は八分音符のまま真ん中に八分休符をいれてもいいんですが、本当は付点八分なので四分+八分のリズムのほうがあとあとよいでしょう。大事なのはこの2つの音のタイミングが揃うことです。十六分音符よりもこちらに重点を置くべきです。

1つ目3つ目のリズムをマスターしたら今まで省略していた真ん中の音をいれてみましょう。その時、元の譜面を気にせずに(5)のように装飾音符だと思ってできるだけ短くすばやく演奏しましょう。最初はスラーをつけてかまいません。ポイントはできるだけ3つ目の音にくっつけることです。この部分はどれだけ十六分を短くできるか、どれだけ付点八分が短くならないようにできるか、が問題です。

3.5 バランスをとるって?

先日、[G]からの各パートのバランスについて質問を受けまして、私としては疑問にも思わなかったんですが、言われてみればノーヒントではわかりにくかったな、などと思いましたので書きます。

この曲は元々簡単な単旋律でした。そこから吹奏楽曲としてふくらませていったのです。その際、旋律を特定のパートに担当させ続けることを避けたということは2.3 小さな流れ〜大きな流れでも書きました。スコア上でそれぞれ別のパッセージを担当しているようでも実は一つのメロディを奏でているということです。例によって大人の事情があるので譜面は載せられませんのであしからず。

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(1)を見てください。クラリネットとピッコロ、フルート、オーボエが同じパッセージを1小節ずらして重なります。その後、少し音量を落としたサックスが加入してクレッシェンドします。

ここのクラリネットとフルートたちのバランスがうまくとれない!どうしたらいいの?というのが質問の内容でした。確かにスコアを見る限り同じフォルテではクラリネットよりフルートの方が小さく聴こえていまいそうですね。しかし、ここはそれでいいんです(審査員がどう判断するかは保証できません)。

どういうことか?(2)を見てください。ここの部分は元々はこうでした。すごいシンプルです。メロディというほどのメロディではないかもしれませんが(1)のようにオーケストレーションすれば吹奏楽の音色を生かした音楽になります。ということでメロディとしては(2)のように聴こえるのが正解だということです。

では、どのように演奏すればよいでしょうか?元々の譜面にはとくに強弱などは書いていません。しかしそんな時にもメロディというものには演奏のしかたがあります。どうするかは演奏者によって意見が分かれますが、何かしらの表情の変化をつけて演奏するのがプロの音楽家の条件です。

まずこのメロディの特徴を考えてみましょう。最初は完全5度の跳躍が2回繰り返されます。同じモティーフを連続で繰り返す場合は1回目と2回目で変化をつけるのが定石です。例えば強弱、例えばテンポ。同じことを繰り返す退屈な演奏などよろしくない!ということです。ここではテンポを揺らすと流れが悪くなりますので強弱で変化をつけるのが妥当でしょう。強弱の変え方は1回目より2回目を大きく演奏するか、小さく演奏するかの2通りがあります。今回はどちらがいいでしょうか?私は同じモティーフを2回繰り返すパターンでは2回目を1回目よりやや小さめに演奏します。ちょうどやまびこのような感じです。そして短くなったモティーフが3回続くところは鼓動が速くなり緊張感が高まります。こういうところは1回目より2回目、2回目より3回目を大きくします。クレッシェンドみたいな感じです。譜面に表情が何も指定されていなくても自然とこのように演奏ができるように心がけましょう。

ということで、元々のメロディを吹奏楽にするにあたって自然とこのような演奏効果がでるように工夫がされているわけです。